
あらすじ
皓翎(こうれい)国の王姫(おうき)・小夭(しょうよう)は母の国・西炎(せいえん)国で従兄(いとこ)の西炎瑲玹(せいえんそうげん)らと暮らしていたが、戦(いくさ)で母を亡くし玉(ぎょく)山に送られたことを機に、300年に及ぶ流浪の苦しみを味わう。身分と霊力と本当の顔を失った小夭は、辿り着いた清水(せいすい)鎮で玟小六(びんしょうりく)と名を変え男として生きることに。そこでの暮らしはつましくも平穏だったが、瀕死(ひんし)の状態の身元不明の男を看病したことから運命の歯車が動き出す。男は葉十七(ようじゅうしち)と名付けられ、命の恩人である玟小六に忠誠を誓い、玟小六を利用しようと近付いてきた辰栄(しんえい)国の軍師・相柳(そうりゅう)から守ろうとする。同じ頃、軒(けん)と名乗る人物が清水鎮に現れ酒屋を開く。その正体は小夭を捜し続ける西炎瑲玹だった。
第1話 朝雲峰での惜別
西炎(せいえん)国の王姫(おうき)を母に、皓翎(こうれい)国の王を父に持つ小夭(しょうよう)は、西炎国の朝雲(ちょううん)峰で従兄(いとこ)の西炎瑲玹(せいえんそうげん)と楽しい日々を送っていた。しかし戦(いくさ)のせいで西炎瑲玹が父と母を亡くし、息子夫婦を亡くした悲しみの中で祖母も世を去り、さらには小夭の母も戦場で命を落とした。「互いに助け合って生きるように」と祖母から遺言された2人だったが、小夭は玉(ぎょく)山に送られてしまい、離ればなれとなる。別れ際に必ず迎えに行くと誓った西炎瑲玹だが、それから長い時が流れて…。
第2話 傷だらけの神族
西炎瑲玹と小夭が離ればなれになって300年が経ち、小夭の行方を捜す西炎瑲玹は、辰栄(しんえい)国の残党軍に探りを入れるという名目で清水(せいすい)鎮を訪れ、清水鎮の出来事をすべて記憶しているという霊石の妖怪に出会う。その妖怪に小夭を捜してほしいと依頼するが、小夭は見つからず…。その頃、清水鎮で医者をしている玟小六(びんしょうりく)は、川辺で倒れていた男を医館に連れ帰る。その男は神族で、治療しようとすると、ひどい仕打ちを受けてきた体は傷だらけだった。
第3話 9つの命をもつ軍師
老木(ろうぼく)は麻子(まし)と恋仲の春桃(しゅんとう)の家へ結納を届けたが、春桃の父は結納が少ないと言って2人の仲を認めず、十分な結納が整えられるのは何年も先になりそうだ。意気消沈する麻子を見て、玟小六は霊草(れいそう)を採りに行って銭を作ろうと考える。しかし霊草がある山奥には辰栄国の残党軍が陣営を構えており、非情な軍師・相柳(そうりゅう)がいる。見つかれば危険だと老木が止めるのも聞かず山に入った玟小六は、希少で高価な動物・朏朏(はいはい)の糞(ふん)を見つけ、おびき出そうとするが…。
第4話 酒店の横暴な令嬢
相柳の軍営で傷だらけになった玟小六は迎えに来た葉十七(ようじゅうしち)に背負われて帰途に就いた。稼ぐこともできず、相柳の配下にされて大損だと嘆く玟小六だったが、途中の洞穴で傷が癒えるのを待つ間に、葉十七は崖に咲く霊草を見つけて来た。これで麻子に嫁を迎えることができると、大喜びで清水鎮に戻る玟小六。晴れて麻子と春桃の祝言が執り行われ2人の新婚生活が始まるが、春桃が阿念(あねん)の衣を羊の血で汚してしまったことで、麻子がけがをさせられ…。
第5話 隠された裏の顔
老木が阿念によって辱めを受けたことに怒りの収まらない玟小六は、軒(けん)の店へ行き老木への謝罪を要求する。軒は大量の酒を持って回春堂(かいしゅんどう)へ出向き、従妹(いとこ)の代わりに老木に謝罪し、2人は和解した。一方で相柳は辰栄軍内の間者に気づき、鈞亦(きんえき)をおびき出し黒幕を探ろうとするが重傷を負ってしまう。玟小六の部屋に身を潜め傷を癒やしていた相柳だが、玟小六は何日か姿を消すと言い残して軒の酒蔵に忍び込む。すると軒と鈞亦の話し声が聞こえてきて…。
第6話 偽りを誠に変える賭け
串子(かんし)が妓楼(ぎろう)の桑甜児(そうてんじ)に夢中だと知った玟小六は、串子に遊ぶ銭があることを不審に思うが、串子は遊びではなく本気で夫婦になりたいと言い、桑甜児も串子から銭は取っていないと言う。ひとまず2人の祝言を認めた玟小六だが、身請けを申し出ると妓楼の女将(おかみ)は法外な額を吹っかけてきた。若くもなく看板でもない妓女(ぎじょ)の身請けを渋るのは何か裏がありそうだ。この前のいたずらに腹を立てた相柳の嫌がらせだとふんだ玟小六は、許しを請いに行くが…。
第7話 清水鎮の賓客
串子と桑甜児の祝言が無事終わり、平穏な日々を過ごしていた玟小六は、回春堂の家主であり清水鎮の王とも呼ばれる兪信(ゆしん)が川沿いにあるすべての店の立ち退きを要求していることを知る。20年以上も清水鎮で暮らしてきて回春堂を手放したくない玟小六は、兪信を説得するため、葉十七を連れて兪(ゆ)府へ行くことに。回春堂にいさせてほしいと頼み込む玟小六だが、結局話し合いでは解決できず、なす術(すべ)がない玟小六と葉十七は帰ろうとするのだが…。
第8話 九頭蛇の別の顔
清水鎮を訪ねてきた相柳は玟小六に「塗山璟(とざんけい)に薬を用意させろ」と命じた。玟小六がしぶしぶ頼むと塗山璟は快く引き受けたが、薬が手に入るまでの人質として玟小六は辰栄軍の軍営に連れていかれる。相柳が薬を求めたのは瘴毒(しょうどく)によって兵士らが次々と倒れているからだった。軍営での相柳に玟小六は今まで知らなかった意外な一面を見る。一方、玟小六のために薬を調達しようとする塗山璟だが、瘴毒に効く薬は何者かによって買い占められていた。
第9話 店主の正体
阿念の身と引き換えに薬を差し出すよう軒を脅迫した玟小六だが、阿念を清水鎮へ送り届ける道中で軒に捕らえられてしまう。阿念が玟小六に毒を盛られたと知った軒は激怒。玟小六は地下牢(ろう)で蛆(うじ)虫に手をかじられる拷問を受ける。あまりの痛みに気を失いかけるが、必ず再会するという西炎瑲玹との誓いを思い出し、相柳を懲らしめるためという名目で育てていた蠱虫(こちゅう)を軒の体に埋め込む。その頃、塗山璟は玟小六を救出すべく相柳を呼び出していた。
第10話 蠱毒を解かない訳
軒すなわち西炎瑲玹を助けるために重傷を負った玟小六だが、相柳と塗山璟に介抱されてけがも完治した。しかし玟小六は相柳にも軒自身にも、軒を助けた本当の理由を明かさない。命を助けられたことと、攻撃すれば我が身に痛みが返ってくることから、軒はひとまず玟小六を殺すことは断念するが、玟小六が蠱毒(こどく)をすぐには解こうとしないため、よからぬ思惑があるに違いないとの疑念を抱く。実は玟小六が蠱毒を解かないのには別の理由があった。
第11話 思わぬ刺客
玟小六は軒に誘われ、塗山璟と3人で碁を楽しんでいたが、石妖(せきよう)が新たな講談をすることを思い出し、2人を連れて茶屋へ向かう。その道中、御簾(みす)に矢の刺繍(ししゅう)がある馬車を見かけた玟小六は、馬車に乗る人物が塗山璟の許婚(いいなずけ)・防風意映(ぼうふういえい)だと気づき、軒と共にその場をあとにする。10年前から塗山璟を想い、塗山(とざん)家に仕えてきた防風意映と塗山璟がついに結ばれるのだと思った玟小六だが、防風意映が清水鎮に来たのは、ある別の目的を果たすためだった。
第12話 蠱虫の異名
相柳にさらわれた翌日、玟小六は阿念の訪問を受ける。軒が何者かに襲撃され、出血が止まらないという。酒店に急行し矢を検(あらた)めたところ、何らかの薬が仕込まれた氷晶(ひょうしょう)の跡があった。氷晶を使えば血が固まると考えた玟小六は、氷晶の風鈴を求めて兪府へ。塗山璟の許婚かつ弓の名手で軒襲撃の下手人と目される防風意映と複雑な思いで対面する。氷晶で出血が止まり、薬を洗い流すために皓翎国の五神(ごしん)山へ向かう軒を玟小六は幸せを祈りながら見送る。
第13話 さよなら 清水鎮
傷の癒えた西炎瑲玹から清水鎮で出会った玟小六の話を聞いた皓翎(こうれい)王は、なぜか玟小六に会いたいと言いだした。皓翎国へ連れてくるよう命じられた西炎瑲玹は、再び清水鎮へ玟小六を迎えに行く。皓翎王のお召しと聞いた玟小六は拒絶するも、西炎瑲玹は有無を言わせず二時(ふたとき)の間に支度をしろと言う。玟小六は辰栄軍の軍営に逃げ込もうと考えるが、すでに道は西炎瑲玹の命で封鎖されている。知人に別れを告げに行くと言って兪府に向かった玟小六は…。
第14話 15年の誓い
玟小六は塗山璟と清水鎮を離れるが、皓翎国へ向かう途中で西炎瑲玹に捕まり龍骨獄(りゅうこつごく)につながれる。獄の中で塗山璟は、回春堂で初めて湯あみをした時から玟小六が女子(おなご)だと分かっていたと明かし、防風意映に愛情はなく、必ず婚約を解消するから15年待ってくれと告げる。その間、他の男を想わないでほしいという塗山璟の言葉に頷く玟小六。そこへ相柳が助けに現れるが、塗山璟を置いていけない玟小六は誘いを断り、皓翎王が待つ宮城へ向かう。
第15話 再会の時
宮殿内で玟小六と鉢合わせた阿念は、これまでの恨みを晴らすべく手を叩く罰を与える。そこへ阿念の母・静安妃(せいあんひ)がやって来ると、戦死したはずの母・西陵珩(せいりょうこう)が戻って来たと勘違いした玟小六は取り乱してしまう。泣き叫ぶ玟小六を抱き締める西炎瑲玹を「従兄(あに)上」と呼んだ玟小六は、ついに自分が小夭であることを認めた。玉山を離れたあとに何があったのかと尋ねる西炎瑲玹に、小夭は「話すのは一度だけ」と伝え、つらい過去の記憶を語り始めた。
第16話 王姫になる決意
皓翎王と父娘(おやこ)の名乗りを交わしたものの、王姫になることを拒む小夭。身分ゆえの不自由さが煩わしいと言う小夭だが、実は王姫に戻ることには別の気がかりがあった。小夭から自分が皓翎王の娘ではないかもしれないという不安を明かされた西炎瑲玹は、何者であろうと自分が守らねばと西炎国に帰る決心をする。だが叔父2人が力を持つ西炎国に今戻るのは危険だ。西炎瑲玹の決心を知った小夭は、西炎瑲玹を守るために皓翎国の王姫になる覚悟を決める。
第17話 盟友との出会い
玉(ぎょく)山へ向かう途中、辰栄(しんえい)氏が治める軹邑(しゆう)城に立ち寄った小夭(しょうよう)一行は、湖上で船遊びを楽しんでいたところに防風意映(ぼうふういえい)が乗る船と鉢合わせ、襲われるはめに。とっさに湖に飛び込んだ西炎瑲玹(せいえんそうげん)だが、目覚めるとそこは辰栄(しんえい)府だった。辰栄馨悦(しんえいけいえつ)に軒(けん)と名乗り辰栄府で療養することになるも、辰栄馨悦を嫌う阿念(あねん)は西炎瑲玹の兄弟子・蓐収(じょくしゅう)に西炎瑲玹を連れ戻すよう命じる。一方、一度は青丘(せいきゅう)に戻った塗山璟(とざんけい)だったが、軹邑城を訪れ小夭と久しぶりの再会を果たす。
第18話 妹王姫の反発
女子(おなご)の姿に戻りたいという気持ちが芽生え始めた小夭。本来の自分の姿に戻ることへの不安を抱きつつも西炎瑲玹に励まされて玉山に向かう。数百年ぶりに小夭を出迎えた王母(おうぼ)は、本当の姿は取り戻せるが霊力を回復するには玉山にとどまらねばならないと告げる。小夭が残るならば次の王母として玉山を任せてもいいと言われた小夭だが、霊力よりも穏やかな日々を望み皓翎(こうれい)国に戻る。しかし、玟小六(びんしょうりく)が姉だったと知った阿念は小夭に対し強い反発を見せる。
第19話 守り抜いた約束
五神(ごしん)山には第一王姫(おうき)のお披露目の儀式に招かれた氏族が集まっていた。皓翎(こうれい)王は蓐収の用意した小夭の礼服が気に入らず作り直しを命じるが、新たに作った礼服は阿念によって汚されてしまい、結局小夭は最初の礼服をまとい儀式へ出ることに。儀式が終わり、塗山璟から小夭に会いたいと言われた西炎瑲玹はそれを小夭に伝える。一度は断ったものの、やはり会うことに決め、約束の地である龍骨獄(りゅうこつごく)へと向かう小夭だが、道中、目の前に突然阿念が現れ…。
第20話 船上の宴
塗山璟に海から助け出され龍骨獄の中で語り合う小夭は塗山璟に口づけするが、塗山璟は時期尚早と考え、自ら唇を合わせることを拒む。そこへ小夭の身を案じた西炎瑲玹が現れ宮中へ連れ帰る。小夭が真っ先に向かったのは阿念の部屋だった。小夭は自分に嫉妬する阿念に対し、母親が大将軍だったために戦死し、いかに苦労したかを説いて阿念と和平協定を結ぶ。その後、瀛州(えいしゅう)へ足を延ばした小夭が露店を見ていると、辰栄馨悦と防風意映に出くわし…。
第21話 敵地のような祖国
小夭と共に西炎(せいえん)国に戻った西炎瑲玹だが、城門に出迎えた叔父たちは、「瑲玹には西炎(せいえん)王への拝謁が許されていない」と城内に通すことを拒絶する。皓翎国の王姫である小夭が強い態度に出ることで道は開かれたものの、西炎瑲玹の帰還が歓迎されていないのは明らかだ。西炎瑲玹の扱いを含め、これまでの祖父としての西炎王に不満を抱く小夭だったが、意外にも西炎瑲玹は西炎王が自分の祖父である以前に一国の君主であることに理解を示していた。
第22話 うり二つの男
小夭を案じた塗山璟は、西炎瑲玹への支援を頼むため軹邑城の赤水豊隆(せきすいほうりゅう)のもとへ向かう。説得を続けるものの赤水豊隆は首を縦に振ろうとしない。一方、五王の息子・西炎岳梁(せいえんがくりょう)の宴(うたげ)に呼ばれた西炎瑲玹は危険を承知で屋敷へ向かう。宴が終わり帰宅の途に就こうとした時、西炎瑲玹は禺疆(ぐうきょう)に襲われるも、赤水豊隆が手配した護衛が現れ難を逃れる。しかし上空には相柳(そうりゅう)そっくりの弓の名手・防風邶(ぼうふうはい)の姿もあり、西炎瑲玹を狙っていた。それを見た小夭は…。
第23話 揺れ動く心
小夭と防風邶は離戎(りじゅう)氏の営む地下賭場にいた。闘技場で殺し合いの末に生き残った奴隷が涙を流す姿を見て、どちらが希望を与えられるか賭けをしようと言いだす小夭。防風邶の話を聞いた奴隷が急に目の色を変えたことに驚いた小夭が何を言ったのか防風邶を問い詰めると、自分も闘技場の奴隷だったと言ったのだと明かす。防風邶が何者なのか疑問に思った小夭が防風邶の胸に手を当てると…。するとそこに塗山璟と防風意映を乗せた馬車が通りかかる。
第24話 中原に向かう志
塗山璟と共に西炎(せいえん)城を訪れた赤水豊隆は西炎国の王位獲得を目指す西炎瑲玹に、西炎城を諦めてはどうかと勧める。当初はその意味を図りかねる西炎瑲玹だったが、天下の核である中原(ちゅうげん)を拠点に天下を取る策だと知ると大いに納得し、中原での再会を誓い合った。しかし、突然中原に居を移せば叔父たちから疑惑の目を向けられる。そこで西炎瑲玹は叔父たちの目を欺き、自分には野心も実力もないと思わせるため、我が身を犠牲にした大芝居を始める。
第25話 遊び人の正体
琦(き)園に刺客が現れ騒然とする中、小夭の寝所に防風邶が潜り込む。西炎岳梁たちに追われ負傷している防風邶を小夭は寝台に隠し脈を診るが、与えた薬が全く効いていないことから、その男が相柳だと察する。共に過ごした時に思いを馳(は)せ、相柳が特別な存在であることを自覚する小夭。一方、自ら逍遥(しょうよう)丹を飲み、叔父たちに堕落者だと思い込ませた西炎瑲玹は、辰栄(しんえい)山の宮殿修繕の特使として中原行きを勝ち取るが、逍遥丹の禁断症状が出始めていた。
第26話 草凹嶺の隠れ家
逍遥丹の禁断症状に苦しんだ西炎瑲玹だったが、小夭の尽力で体から毒を取り除くことができた。辰栄山で塗山璟と待ち合わせた小夭は式神によって草凹(そうおう)嶺の茅葺きの家に案内される。住む人もないまま長い歳月を経ても少しも古びていない家はかつて赤宸(せきしん)が住んだ場所だった。小夭の母と相打ちして共に果てた赤宸の家だったと知った塗山璟は小夭の心情を思って謝るが、小夭は過去のこととして気にしていない様子で、草凹嶺は2人の隠れ家となった。
第27話 揺るがない想い
塗山璟は、自分には心に想い人がいると防風意映に伝え、婚約解消を申し出る。突然の告白に驚きを隠せない防風意映は受け入れることができず、その場を去ってしまう。一方、以前は婚約解消に同意していたはずの祖母が一転して、絶対に認めないと塗山璟に告げる。塗山璟は、自分が望んでいないと知りながら祖母が防風意映との祝言の準備を進めていたことを知り、生涯誰も娶(めと)らないと言い残し、青丘を離れて軹邑城に向かうことを決める。
第28話 甘いひととき
辰栄府に招いた小夭の気を引きたい赤水豊隆は様々な贈り物をするが、女子への贈り物としてはどれも的外れで辰栄馨悦に叱られる。辰栄馨悦は代わりに化粧道具を贈り、慣れない小夭に使い方を手ほどきする。辰栄馨悦がかつて西炎国の人質だったことを知り、親近感を覚える小夭。そして開かれた小夭と塗山璟を歓迎する宴。赤水豊隆が張り切って披露した火球が空中ではじけた瞬間、小夭に引き寄せられた塗山璟は、小夭への想いを新たにする。
第29話 不肖の弟子
西炎瑲玹が辰栄馨悦を娶ると知った阿念は大きな衝撃を受け、西炎瑲玹を諦めるために婿選びの宴を開く。塗山璟は防風邶に呼び出され清水(せいすい)鎮までの荷運びを頼まれる。小夭の存在を盾にしたような取り引きを不快に思う塗山璟だが、小夭が弓術を習った礼として輸送は引き受ける。西炎瑲玹に心酔する赤水豊隆は西炎瑲玹の私兵を集めるため赤水(せきすい)に戻ると言う。小夭と赤水豊隆の距離を近づけたいと考える西炎瑲玹は、年明けまで待てと止めるが…。
第30話 梅林での惨劇
辰栄馨悦に誘われ出かけた梅林で小夭は沐斐(もくひ)という男に襲われる。赤宸に一族を皆殺しにされた復讐だと言う沐斐に、赤宸とは縁もゆかりもなく、自分は皓翎王の娘だと訴える小夭だが、沐斐は聞く耳を持たず小夭の全身に無数の暗器を放つ。同じ頃、西炎瑲玹は胸騒ぎを覚え小夭がいる軹邑城へ急ぐ。同様に異変を感じて梅林に駆けつけた塗山璟は瀕死(ひんし)の小夭を発見。その命を救うべく自身の全霊力を小夭に送るが、やがて2人の周囲に火の手が上がり…。
第31話 敵討ち
小夭を襲った沐斐を捕らえた西炎瑲玹は拷問で沐斐を痛めつけるが、協力者については一向に口を割ろうとしない。しかし沐斐に息子がいることを調べ上げていた西炎瑲玹が息子の命を盾に脅すと、沐斐は小夭が皓翎国の王姫ではなく、沐(もく)氏一族を滅ぼした赤宸の娘だと知って殺そうとしたのだと白状した。理由が分かり、残りの仲間もすぐに突き止めた西炎瑲玹だったが、六大氏族と関係の深い人物だったことから、見逃すよう辰栄馨悦と赤水豊隆に説得される。
第32話 海底の日々
梅林での事件から37年が過ぎ、海底で相柳の手当てを受ける小夭は順調に快方に向かう。眠ったままの小夭だが、体を離れた意識は、それまで彼女が見たことのない穏やかな態度で接する相柳を目にしていた。相柳は西炎瑲玹を呼び出し小夭の回復が近いことを告げると、小夭を返す条件として、辰栄(しんえい)軍の英霊の魂を故郷に眠らせるために辰栄山の峰を1つ所望し、西炎瑲玹はこれを快諾する。一方、辰栄府では塗山璟が死の淵をさまよっていた。
第33話 決意の告白
塗山璟(とざんけい)の脇でうたた寝をする小夭(しょうよう)の姿を見た西炎瑲玹(せいえんそうげん)は思わず涙を流す。回復して真っ先に辰栄(しんえい)府へ向かった小夭を責めるものの、私兵を養うには塗山璟の援助が必要なため、目覚めるまでそばにいたいという小夭の願いを聞き入れる。小夭のかいがいしい世話のおかげで意識を取り戻した塗山璟は、名を捨てても小夭と一緒にいると決意し、小夭もまた「決して手放さない」という塗山璟の言葉に感動する。だが、2人の仲を知った赤水豊隆(せきすいほうりゅう)が激怒し…。
第34話 雨の夜の宣告
激しい風雨の夜半に塗山璟が小夭を訪ねて来る。彼が口にしたのは、病身の祖母のため3日後に族長の座を継ぐため、小夭を娶(めと)ることもかなわなくなったという知らせだった。憔悴しきった塗山璟を見て、小夭は笑顔で事態を受け入れる。一方、塗山璟が後を継ぐことを苦々しく思う塗山篌(とざんこう)は酒を飲んでくさっていたが、防風意映(ぼうふういえい)が重大な秘密をささやく。塗山璟の族長継承の儀に参列した防風邶(ぼうふうはい)は、小夭の恋の破局をからかい、小夭を青丘(せいきゅう)の賭場に誘う。
第35話 塗山氏夫人への執念
長年、国を離れたままの娘を案ずる皓翎(こうれい)王に顔を見せるため、小夭はいったん皓翎(こうれい)国に戻ることに。祖母の具合が悪いとの知らせを受けた塗山璟は青丘に戻ることになり、2人はしばらく離ればなれとなる。塗山篌から塗山璟の想い人が小夭だと聞いた防風意映は、破談の意思が固いと見るや意外にも身を退(ひ)くと言いだす。思わぬ申し出に喜んだ塗山璟は婚約解消の同意を得たと祖母に報告するが…。そんな中、大明(たいめい)殿の修築が終わり、竣工(しゅんこう)の儀が行われる。
第36話 残酷な運命
大明殿が崩壊したことで工費の着服を疑われ、西炎岳梁(せいえんがくりょう)に帳簿を調べられることになった西炎瑲玹。だが塗山璟が帳簿を整理したおかげで事なきを得た。安心した小夭は、塗山璟の祖母を治療するため青丘へと向かう。治療は成功するが、そばで見守っていた防風意映が突然倒れてしまう。塗山璟の祖母に言われて小夭が防風意映の脈を診ると、懐妊していると分かる。信じたくない小夭だったが、弁明すらしない塗山璟を見て、2人の子なのだと悟る。
第37話 従兄の縁組み
小夭と阿念(あねん)は西炎瑲玹から六大氏族の筆頭である曋(しん)氏の娘・曋淑恵(しんしゅくけい)を側妃に迎えると聞かされる。中原(ちゅうげん)の各氏族を味方につけるために赤水豊隆が提案した、いわば政略結婚だった。ショックのあまり涙を流してその場を離れる阿念に対し、西炎瑲玹に理解を見せる小夭。婚礼中に小夭との幼き頃の約束が頭をよぎった西炎瑲玹は思わず感傷的になる。そんな中、塗山璟と顔を合わせないよう席を外した小夭のもとに防風邶の姿をした相柳(そうりゅう)がやって来て…。
第38話 若水族の刺青
中原の氏族らが西炎瑲玹の弾劾を訴える中、紫金(しきん)宮の修築完成を機に西炎(せいえん)王は中原の安泰のため辰栄(しんえい)山の頂上で祭祀(さいし)を執り行うことにした。西炎徳岩(せいえんとくがん)らは暗殺を懸念して思いとどまるよう諫(いさ)めるが、西炎王は西炎徳岩を伴い中原に向かう。沢州(たくしゅう)城に着いた西炎王は氏族らを招待して宴(うたげ)を催すが、西炎瑲玹には招待状が届かず、沢州に赴いても拝謁すらかなわない。西炎王が西炎瑲玹を避けていることは明らかだ。その夜、西炎王が刺客に襲われる事態が…。
第39話 王位を継ぐ者
西炎王が紫金頂(しきんちょう)での祭祀の準備を西炎徳岩に任せ、祭祀のあとに重大な発表をすると発言したことで、氏族らの間では西炎徳岩が儲君(ちょくん)として冊立(さくりつ)されるという噂(うわさ)が流れる。西炎徳岩は祭祀の準備を理由に西炎瑲玹を紫金頂から立ち退かせ、自身の兵を配備した。噂のとおり西炎徳岩が儲君となれば西炎瑲玹に活路はなく、配下らに起兵を促されるも西炎瑲玹にその意思はない。そんな折、辰栄府に呼び出された小夭は赤水豊隆から思いがけぬ求婚を受ける。
第40話 宿願を果たして
小夭と共に西炎(せいえん)山に戻ってからの苦難の日々を経て、晴れて西炎王の座を譲られた西炎瑲玹は、宿願を果たしたもののある種のむなしさを感じていた。朝堂には五王をはじめ西炎瑲玹の即位を快く思わない氏族らも多く、中原に滞在し続ける西炎瑲玹に都である西炎(せいえん)城に戻るよう諫言(かんげん)する声も上がる。これに対し商羊(しょうよう)族長は、今後の発展への利に鑑み軹邑(しゆう)城への遷都を勧めた。西炎瑲玹は商羊氏の支持を得て遷都を実現させるべく、商羊氏から妃(きさき)を迎える。
第41話 断つべき想い
赤水豊隆と婚約した小夭は相柳との関係を断とうとしつつも複雑な感情に揺れ動いていた。西炎国の氏族らは依然として遷都に不満を持っていたが、西炎瑲玹はうまく氏族らの懐に入り込み、商羊氏の協力も得て無事に遷都を実現させる。遷都にも西炎王となった西炎瑲玹に従うことにも納得がいかない西炎徳岩と西炎禹陽(せいえんうよう)だったが、朝堂での勢力が大きく西炎瑲玹に傾いた今、彼らに挽回の機会はなく、2人の叔父は西炎山に戻って隠居を決心する。
第42話 王后の冊立
無事に遷都を実現したものの、中原と西炎の氏族らをまとめる道は、まだ1歩を踏み出したばかり。太尊(たいそん)は西炎瑲玹に辰栄馨悦(しんえいけいえつ)を王后に立てるよう示唆する。中原で最も力を持つ辰栄(しんえい)氏と姻戚関係を結ぶことで中原を基盤とする歩みがより確かなものになると西炎瑲玹も承知していたが、小夭の存在がその決断を苦しいものにしていた。 一方、塗山璟は藍枚(らんまい)が死の直前に自分に何かを伝えようとしていたと聞き、息子・塗山瑱(とざんてん)と自分の関係を疑い始める。
第43話 十三月の約束
皓翎国に戻った小夭は瀛州(えいしゅう)で医館を始め、清水(せいすい)鎮での日々を懐かしんでいた。西炎瑲玹からは毎日1通帰国を促す文(ふみ)が届くが、小夭は一度も返事を書かずじまいだ。西炎瑲玹は自ら迎えにやって来て、小夭が辰栄山に戻らないなら自分もここで酒店を始めると言いだす。理不尽な脅しに納得がいかないながらも、しぶしぶ辰栄山に戻った小夭。鳳凰(ほうおう)樹と鞦韆(ぶらんこ)がある小月頂(しょうげっちょう)で太尊と共に暮らし始めたが、気持ちは晴れず、何もやる気の起きない毎日だった。
第44話 運命を待つ想い
小夭が赤水豊隆との婚礼を承諾し、その知らせは皓翎王にも伝えられた。小夭は相柳のために最後の毒薬を用意し、清水鎮へ送るため街に出る。三月(みつき)が経たぬのに小夭が相柳に薬を届けることを不審に思う塗山璟は、街で会った小夭から婚礼が近いことを告げられ吐血する。婚礼まで皓翎国で過ごすために帰国する前夜、小夭は手料理を作って西炎瑲玹と2人きりの別れの宴を開く。小夭の婚礼を素直に喜べない西炎瑲玹は酔って思いのたけを告白するが…。
第45話 略奪された花嫁
小夭の婚礼の日、塗山璟をはじめ多くの来賓が集まり婚儀が進められる中、突然相柳が現れ、「赤水豊隆に嫁ぐな」と言い放つ。それを無視して婚儀を続けようとする小夭だが、相柳はかつて玟小六(びんしょうりく)と交わした誓いを持ち出し、自分と一緒にこの場を離れろと要求する。小夭は誓いを破るわけにはいかず、赤水豊隆にわびを告げて立ち去るしかなかった。この知らせはすぐに西炎瑲玹の耳にも入ったが、西炎瑲玹は嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。
第46話 青丘での再会
年老いた桑甜児(そうてんじ)と再会した小夭は、自分が清水鎮から去ったあとも、塗山璟が葉十七(ようじゅうしち)として回春堂(かいしゅんどう)の皆を気遣ってくれていたことを知る。さらに、相柳に婚礼を止めるよう依頼したのは塗山璟だったと聞かされると、小夭は事の次第を確かめるため、青丘に向かった。久々に会う塗山璟は重い心の病にかかっていたが、小夭がまだ自分を想っていることを知ると、塗山瑱は恐らく塗山篌の息子であり、自分と防風意映の間には何もなかったはずだと伝える。
第47話 海棠の宴
面倒を起こしたことを謝るため小夭は皓翎国に戻ったが、皓翎王は怒るどころか「塗山璟を取り戻してやる」とまで言ってくれた。これまでの言動を思い起こせば、確かに塗山篌と防風意映の仲は疑わしい。しかし必要なのは2人の密通と塗山瑱が彼らの子である証拠だ。塗山璟のために薬を完成させた小夭は、何事かを決心したように再び中原に戻る。一方、青丘では防風意映の侍女・喧昼(けんちゅう)が、塗山璟の薬の処方を変えるよう指示していたことが明らかに。
第48話 魚丹紅の罠
小夭は自分に関心を示す塗山篌の気を引き、かつて船遊びの際に塗山篌が手に入れた魚丹紅(ぎょたんこう)を贈られる。塗山篌と行動を共にする小夭を見た離戎昶(りじゅうちょう)は小夭の振る舞いに憤るが、塗山璟には小夭の意図が分かっているようだった。手に入れた魚丹紅の首飾りを胸に離戎(りじゅう)妃の宴に出席した小夭。その魚丹紅を目にした防風意映は顔色を変えて青丘に戻り、塗山篌を呼び出して小夭との関係を問い詰める。静夜(せいや)と胡珍(こちん)は2人の密会の現場を押さえようとするが…。