海外ドラマでは近年、「オクニョ 運命の女(ひと)」(韓国)や「女王ヴィクトリア 愛に生きる」(アメリカ)など、アジアから欧米まで男性に負けない活躍を見せる女性を主人公にした歴史ドラマが花盛り。日本でも大河ドラマ「おんな城主 直虎」が人気を集めているが、実はお隣中国でも同様のブームが猛スピードで進行中。強く賢いヒロインにスポットを当てた歴史ドラマが次々と登場しているのだ。
中国の歴史といえば、日本で最も人気があるのは漫画『キングダム』や多くのゲームの原作となっている『三国志』だろう。そのため、中国の歴史ドラマというと戦国時代の英雄を主人公にした男らしいドラマをイメージする人が多いかもしれないが、実際は、経済発展とともにエンターテイメント市場も大きく成長を遂げてバブルを迎えた中国のテレビ界では、いまや歴史ドラマも若者や女性をターゲットにした娯楽色の強い作品が主流。さらに、世界のトレンドに乗って、歴史に残る偉大な女性の生き様や功績を現代的な解釈で描く作品が人気となっている。
たとえば2015年には、中国史上初の女帝を描いた「武則天-The Empress-」が、中国で歴史ドラマの史上最高視聴率を記録。続いて2016年には、中国史上初の女性政治家を主人公にした「ミーユエ 王朝を照らす月」が、ドラマ視聴率No.1を記録した。舞台は、紀元前4世紀。史上初めて中国統一を成し遂げた秦の始皇帝の高祖母であり、歴史上では「宣太后」として知られる女性をモチーフに描いている。幼い皇帝に代わって政治の舞台で活躍した彼女は“鉄の女”ともいわれた女傑で、始皇帝が中国統一を実現するまでの礎を築いた人物だ。また、恋多き女であったとも伝えられており、今から2000年以上前の女性でありながら、愛に正直に生きたことをうかがわせる逸話も残されている。ドラマでは生涯で3人の男性を愛した彼女が、数奇な運命に翻弄されながらも、自分の強い意志でその人生を切りひらき、政治家として男性たちと渡りあう一方で、女性として恋愛にも身を捧げていく姿がロマンティックに描かれていくのが見どころだ。
豊かな経済力と悠久の歴史を武器に、欧米のドラマにも負けない作品を生みだしている中国の歴史ドラマは、これからますます日本でも注目されていくはず。ヴィクトリアの命がけの恋に心ときめかせ、監獄で生まれ育ったオクニョの活躍にワクワクし、直虎のせつない運命に涙した人は、ぜひミーユエの愛と戦いの物語も楽しんでみてほしい。
2016年、中国女優年収ランキングでダントツの1位だったのは、約22億円を稼いだと推定されるファン・ビンビン。では、彼女に次いで約11億円を稼いだといわれる2位の女優は? それは、2016年に主演作「ミーユエ 王朝を照らす月」をドラマ視聴率No.1の大ヒットに導いた今年35歳のスン・リー。その実力とエキゾチックな美貌で、いま日本でもファンが急増中だ。
デビュー間もない2004年、スン・リーはファン・ビンビン同様、日本のサントリー烏龍茶のCMに出演、カンフーをする凛々しく爽やかな姿を見せてお茶の間の話題をさらった。その後も、ドラマ「1メートルの光」「新・上海グランド」、映画『SPIRIT』ほか出演作がコンスタントに日本で紹介され、2013年、主演時代劇ドラマ「宮廷の諍い女」がBS フジで放送されると、その堂々たる熱演で改めて注目の的に。この演技でスン・リーは国際エミー賞・主演女優賞にもノミネートされ、国内外で演技派女優としての地位を確立した。
そんな彼女が再び日本で話題を集めているのが、代表作「宮廷の諍い女」を上回る視聴率を記録した新作「ミーユエ 王朝を照らす月」である。本作で彼女は中国統一への道を切りひらき、激しい恋に生きた秦の始皇帝の高祖母・宣太后をドラマティックに演じて、中国で2016年のドラマ最高視聴率を獲得した。このように30代になってからも主演ドラマを次々と成功させることができるのも、彼女の高い演技力と人気があってこそ。中国では特に20~30代の女性から圧倒的に支持されているというスン・リーは、女優としてだけでなく、女性としても憧れの存在なのだという。
というのも、彼女はその演技の才能でキャリアに磨きをかけ、その衰えない美貌で資生堂の中国限定ブランドAUPRESの広告モデルを務める一方、27歳で結婚した実力派の人気俳優ダン・チャオと二人の子供を育てる良き妻、良き母の顔も持っている。夫婦合わせたSNSフォロワー数は約9800万人、推定合計年収は32億円超で、まさにハリウッドのセレブ級! それでもプライベートは気取るところが全くなく、どんなに仕事が忙しくても夫婦で幼い子供たちを連れてたびたび 遊びに出かける普通のママの顔を見せており、まさに仕事と家庭を両立させて輝いている理想の女性像といえる。
今年も主演ドラマ「那年花開月正圓(原題)」を大ヒットさせたスン・リーは、巨匠チャン・イーモウ監督による三国志映画「影(原題)」(来年中国公開予定)に夫婦揃って出演するなど快進撃が続く。今後、日本でもさらに熱い注目を浴びることになりそうだ。
坂口健太郎、菅田将暉、綾野剛……今、女性たちのハートをつかんでいるのは、あっさりとした顔の魅力的な“塩顔”男子。実は中国でも“塩顔”イケメン俳優ホアン・シュアンが大ブレイク中だ。『グレートウォール』でマット・デイモンと共演、2018年公開予定の『空海―KU-KAI―』では染谷将太の相手役をつとめるなど、今勢いにのって、国際的に活躍する注目の俳優の1人だ。「ミーユエ 王朝を照らす月」「女医明妃伝 ~雪の日の誓い~」「私のキライな翻訳官」などの中国ドラマでも注目を集める彼に注目してみよう!
ホアン・シュアンは1985年生まれの32歳。演技派俳優として評価されているだけでなく、ディオールのアンバサダーを務め、ファッション誌のグラビアを飾るなど、スタイリッシュなカッコよさでも人気を集める存在だ。子どもの頃、マイケル・ジャクソンに憧れてダンスを始めたという彼は、北京舞踏学院という名門校の出身。体の線がきれいで身のこなしが美しいのも、元ダンサーと聞けば納得だ。
そんな彼は在学中に早くも、世界的な巨匠監督の作品で国際的に華々しいデビューを飾るチャンスをつかんだ。チャン・イーモウ監督の映画『王妃の紋章』(2006)のオーディションに合格、王子役に抜擢されたのだ。ところが、脚本の変更で王子の年齢が19歳から14歳に引き下げられると、降板を余儀なくされることに。こうして涙をのんだ彼は、10年後にリベンジが叶ってチャン・イーモウ監督の米中合作映画『グレートウォール』に出演するまで、一から地道にキャリアを築いていくことになった。
やがて、ホアン・シュアンに転機が訪れたのは2014年。この年、彼が盲目のマッサージ師を演じた映画『ブラインド・マッサージ』がベルリン国際映画祭の銀熊賞を受賞し、台湾のアカデミー賞・金馬奨で6冠に輝いた。また、彼はドラマ版「紅いコーリャン」で中国のエミー賞・国劇盛典のブレイクスルー男優賞を獲得。そして、翌年から2016年にかけて大河ドラマ「ミーユエ 王朝を照らす月」で「宮廷の諍い女」の名女優スン・リーと共演すると、さらに大きな注目を浴びることになった。
「ミーユエ 王朝を照らす月」で彼が演じたのは、スン・リー扮する秦の始皇帝の高祖母・宣大后の初恋の相手で、彼女を一途に愛する黄歇役。高貴な出身で高い志をもちながら悲しい運命に翻弄される役どころは “塩顔”イケメンの彼にぴったり。時代劇衣装を美しく着こなす姿も視聴者をうっとりさせた。さらに、愛と信念を貫く黄歇の情熱や葛藤を見事に演じてみせた彼は評価を高めて、ついにトップスターの仲間入り。今では主演ドラマや映画を次々と成功させている。
来年には染谷将太との共演でも話題の日中合作映画『空海―KU-KAI―』の公開を控え、今後日本でもブレイク間違いなしのホアン・シュアン。中国でのインタビューでは「挫折を味わったからこそ精神的にも成長できた。自分が情熱を注げる仕事は俳優しかない」と語っている彼の魅力を、彼の魅力をまずは「ミーユエ 王朝を照らす月」でチェックしてみては?
その大きな資本力で近年はハリウッドにも進出している中国のエンターテイメント業界は、今が空前のバブル時代。ドラマ製作にもハリウッド並みの巨費が投じられ、世界をもターゲットにできる完成度の高い作品が次々と生まれている。なぜ ‘今’中国のドラマが面白いのだろうか?2016年最大のヒット作「ミーユエ 王朝を照らす月」(以下、「ミーユエ」)の例を見てみよう。
■映画並みスケールで撮影
今や中国ドラマは、映画同様の撮影手法で大規模ロケを行い、有名デザイナーが衣装を手がけ、CG処理にお金をかけるのは当たり前。2010年に放送され大ヒットした「三国志 Three Kingdoms」では製作費25億円が大きく話題となったが、その後、2011年「水滸伝」では製作費55億円、2015年「武則天」では製作費56億円が投じられるなどそのスケールは年々大きくなっている。そしてついに2016年には、製作費58億円を投じた時代劇大作「ミーユエ」が大ヒットした。ヒット作「宮廷の諍い女」のスタッフ・キャストが再結集し、人気歴史小説をドラマ化した本作は、時代考証に基づいて春秋戦国時代を再現、迫力のアクションと華やかなロマンス満載で秦が中国を統一する以前の歴史的背景を描き、中国で2016年のドラマ最高視聴率を獲得、インターネット視聴の累計再生数も最終回配信時点で200億を突破し、歴代記録を更新した。
■58億円…巨額の製作費の秘密
中国は21世紀に入ってから、知的財産権に関する法律が整備され、近年その保護政策も強化されてきた結果、多くの若者に支持されるヒット小説やゲームなどの知的財産(IP);を活用したドラマが、大きな流行を巻き起こすようになっている。
「ミーユエ」も放送前から宣伝タイアップが大々的に行われ、作品にちなんだ服飾品、お酒、電化製品、ゲームアプリなどが販売された。1992年まで知的財産権を守るベルヌ条約に加盟しておらず、偽物が横行していた一昔前の中国ではできなかったビジネスモデルだ。「ミーユエ」はこれら商品化も含めた版権収入だけで約58億円の製作費は、放送前に回収できたのではないかといわれている。
■世界に通用するレベルのドラマ
“IP(知的財産)ドラマ”の成功はさらなる投資を呼び、ドラマのクオリティの底上げにもつながっている。巨額の制作費を武器に作られた面白い中国ドラマは、国内だけでなく世界に通用するレベルになっている。実際、「ミーユエ」は日本、台湾、香港、シンガポール、マレーシア、韓国、ベトナム、カンボジア、タイといったアジア地域だけでなく、アメリカ、カナダの北米地域にも輸出された。日本でもここ数年、買い付けされる中国ドラマの本数は時代劇を中心に増加傾向だ。
潤沢な製作費が作品のクオリティを上げ、大規模なヒットと莫大な利益を生む好循環で、世界からも注目されるようになった中国ドラマ。「ミーユエ 王朝を照らす月」を観れば、今の中国ドラマが秘めている絶大なパワーと魅力を味わえるはずだ。