あらすじ
清(しん)朝乾隆(けんりゅう)帝の時代。江南(こうなん)きっての織物名家・任(じん)家に身を寄せ、緙絲(こくし)の職人となった沈翠喜(しんすいき)は、その腕を買われて当主の任雪堂(じんせつどう)と結婚し、織物工房「清越坊(せいえつぼう)」を立派に切り盛りしていた。しかし、雪堂は没落した名家の令嬢・曽宝琴(そほうきん)との愛を貫き、山塘(さんとう)街にある別宅に住まわせ子供を作る。そんな中、汚職官僚の不正事件に巻き込まれた雪堂が命を狙われて行方不明に。翠喜は当主不在の任家を守るため、宝琴が産んだ息子・秀山(しゅうざん)を後継者として引き取り、女主人として汚職官僚と闘う道を選ぶ。強い責任感と覚悟からどんなときも厳格に振る舞い、弱みを見せない翠喜。しかし実は、心の奥底に孤独を抱えていた。そんな彼女を理解してくれたのは、秀山の家庭教師となった余命わずかな青年・魏良弓(ぎりょうきゅう)で…。
第1話 嵐の前触れ
清(しん)朝乾隆(けんりゅう)帝の時代。蘇州(そしゅう)では、伝統技法を用いた織物“緙絲(こくし)”の生産が盛んに行われていた。蘇州で有数の織物工房・清越坊(せいえつぼう)では、女主人の沈翠喜(しんすいき)が才腕を振るい、立派に切り盛りしていた。ある日、翠喜は怒り心頭に発し、夫・任雪堂(じんせつどう)の外出先である山塘(さんとう)街の一室に踏み込む。そこには雪堂と将来を誓い合ったという幼なじみの女・曽宝琴(そほうきん)がいた。一方、雪堂の異母弟・任如風(じんじょふう)は、賭場で広州(こうしゅう)から来たという商人と出会うが…。
第2話 任家の危機
如風と生糸の取引を行った張飈(ちょうひょう)は、近海を荒らし回る海賊だった。清朝では、民間人と海賊との交流・取引はご法度。法を犯せば一家お取り潰しの大罪になるという。翠喜と雪堂は、任(じん)家の危機を救うために奔走する。一方、宝琴は雪堂から如風が大罪を犯したことを知らされると、道連れになるのを恐れて姿を消そうとするが、直前で見つかってしまう。宝琴の自分への愛を疑った雪堂だったが、彼女から衝撃の事実を打ち明けられる。
第3話 妾の本分
雪堂が半年ぶりに宝琴のもとへ。1人残された翠喜は寝床に入るものの寂しさを拭えず、織機に向かう。そこへ雪堂が帰宅し、妊娠した宝琴を妾(めかけ)として任家に迎え入れたいと告げる。婚礼の準備が進んでいたある日、くすんだ赤色の婚礼衣装は気に入らないと宝琴から苦情が入る。だが翠喜は意地悪をしたわけではなく、宝琴に分をわきまえてほしいだけだった。翠喜の思いを知った雪堂は衣装を手に山塘街を訪れ、宝琴を説得する。
第4話 女将の宣言
張飈に襲われた雪堂の安否が依然として不明な中、任家に長老衆がやって来た。長老たちは、雪堂が見つからない以上、女の翠喜は当主の座を如風に譲るべきだと迫る。しかし翠喜は、宝琴が産んだ雪堂の子・秀山(しゅうざん)を新たな当主にすると宣言し、長老たちの意見を退ける。その後、翠喜は山塘街に出向き、宝琴との激しい口論の末、秀山を連れ去る。宝琴は子を奪われた恨みから、ある人物と接触し、翠喜を陥れるための一計を案じる。
第5話 反撃開始
翠喜は四大織り元の当主を招き、数年来の生糸価格の高騰は有力者による買い占めが原因だと示唆する。翠喜の提案により、四大織り元は糸卸を含めた業界の組合を設立し、生糸価格の安定が図られることになった。一方で宝琴は、同門であり蘇州織造(しょくぞう)局の高官である李照(りしょう)に、組合を潰す代わりに息子の秀山を弟子にしてほしいと頼み込む。李照は織り元の新たな領織(りょうしょく)を決める競技会を開催。翠喜の前に現れたのは、清越小坊(せいえつしょうぼう)の看板を背負った宝琴だった。
第6話 夫の手紙
競技会の出品作が出そろった。蘇州知府(ちふ)の曹文彬(そうぶんひん)は翠喜を首位にしようとするが、織造局の李照は刺繍(ししゅう)の技法を使っていることを理由に反対する。そこへ、遅れて完成させた宝琴が緙絲のみで織り上げた作品を提出。李照は宝琴を首位とし、清越小坊の大番頭である如風が新領織に選ばれる。競技会のあと、宝琴に呼び出された翠喜は、雪堂が失踪前に宝琴に渡していた文(ふみ)を見せられる。雪堂の気持ちが自分にないことを改めて突きつけられた翠喜は…。
第7話 捨て身の覚悟
競技会で敗れた翠喜は、任家の長老衆から責任を問われ、屋敷内の離れに閉じ込められてしまう。翠喜の身動きが取れないうちにと、秀山を連れ戻しに来た宝琴と李照だったが、如風と林舒芳(りんじょほう)によって追い返されてしまう。ある日、如風は思いがけず張飈と再会。張飈に脅され、生糸の密売に再び手を染めるが、取引中に官府に捕まってしまう。事情を知った翠喜は離れから抜け出し、如風を助けるためのある秘策に打って出る。
第8話 失われた技を求めて
異色双面緙(いしょくそうめんこく)の技を復元するため、曽(そ)家が収蔵していた“十二水図(じゅうにすいず)”を手に入れたいという翠喜。宝琴から現在の所有者が季(き)家であることを聞き出した如風は、季家の当主のもとへ出向き、双面緙復元のために譲ってほしいと迫る。一方、ここ数日の翠喜と如風の動向を知った宝琴は、怒り心頭で翠喜のもとへ向かうが、かつて雪堂との仲を引き裂かれた原因は自分の親にあったことを知る。虚無感に襲われた宝琴は川で身投げしようとするが…。
第9話 新たな出会い
李照は弟弟子の魏良弓(ぎりょうきゅう)に、科挙を受けて嫡母(ちゃくぼ)に孝行せよと命じるが、彼は反発してその場を立ち去る。良弓は1人吹雪の中をさまよううちに意識を失い倒れてしまう。そこへ通りかかった宝琴が彼を連れ帰り、看病する。その後、意識を取り戻した良弓は、宝琴と互いの境遇を語り合い意気投合。それぞれが自分の家族の姿を重ね、生きる力を得るのだった。そんな中、良弓は翠喜への反発を秘めつつ、秀山の教育係として任家に入る。
第10話 情の深い人
李照の命(めい)を受けた丁栄(ていえい)・巧児(こうじ)夫婦が任家を訪れ、清越坊の新作を朝廷に献上したいと告げる。巧児は2人の女児を産んでいたが、跡取り息子を望む婚家の意を受けてまた懐妊していた。子を成せない自分を雪堂が咎(とが)めなかったのは、宝琴がいたからだろうかと思い悩む翠喜。聡明で自立心の強い舒芳は婚姻をより忌み嫌う。一方、人となりを知ったことで翠喜との距離を縮める良弓が気に入らない宝琴は、李照との碁の対決にも集中できずにいた。
第11話 裏切り者の狂言
秀山は良弓が作った木彫りの人形を持ち出して翠喜に贈る。彫ったのは良弓だと知った翠喜は、彼に言われた「想い人がいる」という言葉を思い出す。そんな中、清越坊の製品が織造局の品質検査で問題を指摘され、織り直しを命じられる。判定したのは領織となった丁栄。任家を訪れた丁栄は、翠喜が復元した双面緙に問題があったと指摘。解決のため蘇州府の職人に織り方を教えるよう提案する。狙いは双面緙の技法であると見抜いた翠喜は…。
第12話 深まる想い
四大織り元の休業を主導したとして、翠喜が罪に問われる恐れがあると知った如風は、蘇州府に単独で乗り込んで任家の当主は自分だと主張。自らが杖刑を受けることで翠喜を守ろうとするのだった。舒芳は、身を挺(てい)して翠喜を守った如風の男気に触れ、次第に彼への想いを強める。一方、李照による任家への嫌がらせが続くと踏んだ翠喜が次なる一手を探る中、良弓は織造局へ出向き、任家への追及をやめるよう李照に訴えるが…。
第13話 残された巾着袋
魏良弓(ぎりょうきゅう)へのお礼として巾着を作った沈翠喜(しんすいき)は、忘れていた恋心が再燃しつつあるのに気づく。一方、林舒芳(りんじょほう)への想いを募らせる任如風(じんじょふう)は婚礼に良い吉日を選択。舒芳が求婚に応じたのを受け、翠喜も嫁荷を準備する。縁談は一気に進むかと思われたが、良弓と曽宝琴(そほうきん)が行動をともにしていたことを如風が翠喜に告発し、良弓をかばう舒芳と任(じん)家を思う如風とで言い争いになる。如風の言葉を反芻した翠喜は、良弓との関係を問い詰めるべく宝琴のもとへ向かう。
第14話 本当の気持ち
如風は、任家から出て行こうとする良弓を引き留める舒芳を見て、舒芳に良弓への想いが残っているのでは、と疑ってしまう。如風が舒芳を遮ると、2人は言い争いを始め、ついには婚姻の取りやめを決めてしまう。一方、任家を出たきり行方不明になった良弓を捜す宝琴は、雪の降る中、生母の墓前に崩れるように座り込む良弓を発見。山塘(さんとう)街の屋敷に連れ帰り、看病することに。宝琴たちが見守る中、良弓はようやく自分の想いに気づくが…。
第15話 一場の夢
宝琴に乞われ、良弓に会いに行く翠喜。互いの想いを確かめ合い、良弓の残りの人生をともに過ごそうと誓い合う。その後、宝琴と語り合った翠喜は、良弓の生い立ちと生母の過酷な人生を知り、女の世知辛さに思いを致すのだった。任家を見張っていた丁栄(ていえい)は、翠喜が良弓に会いに行ったところを目撃する。李照(りしょう)への報告をためらう丁栄だったが、李照の部下に捕らえられ、板打ちの罰を受ける。李照は姦通の罪で翠喜を追い込もうと企(たくら)み…。
第16話 醜聞
女将(おかみ)と教育係の禁断の恋物語『繍荷包(しゅうかほう)』が蘇州(そしゅう)じゅうに広まる中、李照が宝琴の屋敷にやって来る。良弓への見舞いという名目だったが、探りに来たのは明らかだった。宝琴は「師の身を案じた秀山(しゅうざん)が呼び戻しに来た」と嘘(うそ)をつく。一方、ただでさえ生糸の値が上がらず不満を抱いていた糸卸は、噂(うわさ)の真相を尋ねるため組合へ。そこに巧児(こうじ)が思い詰めた様子で現れる。事情を聞いた舒芳たちは翠喜の部屋を訪れるが、中にいたのは丁栄だった。
第17話 任家の反撃
丁栄の陰謀から翠喜を守るため、舒芳は翠喜の部屋にあった男物の衣は自分が縫ったと主張。結果、思わぬ形で如風との婚約を破棄してしまう。一方の如風は、舒芳から婚約を破棄された腹いせに、街で見つけた丁栄を叩きのめす。翠喜と良弓の噂が蘇州じゅうに広がる中、宝琴は李照と会い、織造(しょくぞう)局の資金難を言い当て、悪事から手を引くようさりげなく警告する。そして宝琴は任家を訪れ、翠喜たちと打倒・李照の策を練るのだった。
第18話 春に散る花
翠喜の進言により大捕り物が行われた蘇州の街。曹文彬(そうぶんひん)は李照を失脚させるため、そして自らの知府(ちふ)留任のため、張飈(ちょうひょう)の捜索に全力を挙げる。一方、これ以上邪魔をさせたくない李照は文彬の後ろ盾である両江(りょうこう)総督のもとへ向かい、牽制させようとする。大仕事を終え、良弓と穏やかなときを過ごす翠喜。そして春。翠喜はうららかな日差しが差し込む離れで、良弓に見守られながら鴛鴦(おしどり)を刺繍(ししゅう)する。だがいよいよ完成というとき、突然、糸が切れ…。
第19話 悲しみを乗り越えて
良弓を失った翠喜は、宝琴の励ましで失意の底から立ち直り、いい人生を生きることを心に誓う。清越坊(せいえつぼう)の商売をもり立てるため、文彬の娘・幺娘(ようじょう)の嫁荷のほか、結納の宴席に出席する曹(そう)家じゅうの者の衣の仕立てを引き受ける。派手な商売をする翠喜に不安を感じた宝琴は、自身の過去について話し、諫(いさ)めようとするが…。その頃、如風に嫁ぐという噂を聞いた舒芳の兄・大虎(たいこ)がやって来て、舒芳に借金の肩代わりを迫る。
第20話 雨降って地固まる
宝琴は、翠喜が蘇州で悪目立ちし始めているとたしなめるが、翠喜は聞く耳を持たない。しかし、翠喜は屋敷で見つけた任雪堂(じんせつどう)の自分宛の手紙を読み、雪堂の真意を汲んで、宝琴を彼の正式な妻として任家に迎え入れる。翠喜はまた、秀山のためとして、宝琴に任家の緙絲(こくし)の極意や商いの心得などを伝授するが、宝琴は翠喜の意図を読みきれず、不安を募らせていく。一方、陳暁紅(ちんぎょうこう)は周りを巻き込み、如風と舒芳の仲を取り持つための策を講じる。
第21話 狼と猛犬
己の身を案じた丁栄から娘たちを預かってほしいと言われた翠喜は、ともに李照を討つべく闇取引の帳簿を盗み出すよう丁栄に頼む。一方、張飈を捕縛できたうえ、生糸の隠し倉庫まで差し押さえた文彬は有頂天に。倉庫の差し押さえ解除を求め、賄賂を渡しに来た李照を門前払いし、生糸の半分を受け取らなければ李照を弾劾しないと翠喜を脅す。断罪されることを恐れた李照は倉庫への放火を指示。翠喜は善後策を相談するため宝琴のもとへ向かう。
第22話 若女将の覚悟
如風と舒芳の婚礼の日。蘇州じゅうが喜びに沸く中、蘇州府の役人たちが如風を捕らえに来た。如風の罪状は、海賊と通じて実兄を殺害したことだという。翠喜は、如風の冤罪(えんざい)を晴らそうと方々に助けを求めるが、誰からも相手にされない。一方、文彬のもとを訪れた李照は、彼が如風を捕らえた真の狙いを知り、がく然とする。任家独自の緙絲の技法を狙う李照は丁栄を通じて、如風の無罪放免に協力すると翠喜に取引を持ちかける。
第23話 生きる
翠喜の同席のもと、如風と張飈の裁きが行われる。張飈は、翠喜と私通する如風から雪堂殺害を依頼されたと供述。張飈に手をかけた如風は退廷させられ、翠喜は杖刑に処される。そこに棺(ひつぎ)を携えた文彬の妻が。女ならば辱めを受けたまま生きるより死んだほうがいいと諭す曹(そう)夫人に対し、翠喜は必ず生き続けると叫ぶ。一方、事態を重く見た任家の長老衆は屋敷の没収を宣言。皆が相手にしない中 、婚礼衣装に身を包んだ宝琴が現れ…。
第24話 直訴の太鼓
陳(ちん)夫人と舒芳は、牢獄(ろうごく)で翠喜と面会する。文彬と取引した翠喜に「7日後には釈放される」と言われて安心した2人だったが、約束の日、いくら待てども翠喜は帰って来なかった。翠喜が文彬に渡した緙絲の図案の検証に時間がかかると李照が難癖をつけていたからだ。そんな中、陳夫人はある決意を胸に、自身の過去を舒芳に語って聞かせる。翌朝、美しく身支度を整えて家を出た陳夫人は蘇州府署に向かい、直訴の太鼓を叩き始める。
第25話 捨て身の覚悟
曽宝琴(そほうきん)は沈翠喜(しんすいき)を救うべく、異色双面緙(いしょくそうめんこく)の秘技を携えて李照(りしょう)のもとを訪れる。しかし、李照から想いを告げられ、動揺したまま目的を果たせず帰って来てしまう。その後、宝琴は蘇州(そしゅう)の権力者に嫁ごうと計画。実は、李照の想いを利用して自身に求婚させると同時に汚職の証拠をつかみ、それを交換条件に翠喜を救おうとしていたのだった。一方、事情を知らない林舒芳(りんじょほう)は、任(じん)家の面目を潰す宝琴の行為に激怒する。そんな中、任秀山(じんしゅうざん)が行方不明になり…。
第26話 冤罪の行方
翠喜が極刑に処されることになった。任如風(じんじょふう)・舒芳夫妻は、直訴を決意した宝琴から秀山を託される。だが、母親の最期に立ち会わなければ不孝者になるという秀山の言葉に触れ、3人で刑場へ向かうことに。刑場は翠喜の冤罪を訴える蘇州の人々であふれていた。死刑執行人でさえひるむような雰囲気の中、ある男が現れる。それは7年前に消息を絶った任雪堂(じんせつどう)本人だった。続いて現れた江蘇巡撫(こうそじゅんぶ)に糾弾された曹文彬(そうぶんひん)は出奔を試みるが…。
第27話 任家の再起
雪堂が蘇州に帰って来たことで、翠喜は釈放された。文彬と李照は、無辜(むこ)の民を己の欲により殺そうとした罪で、それぞれ流刑となる。任家は清越坊(せいえつぼう)の営業を再開し、ようやく平穏な日々を取り戻した。そんな中、雪堂は如風に、自身が失踪に至るまでの経緯を説明し、いまだ翠喜と宝琴のどちらを選ぶべきか苦悩していると打ち明ける。如風は、妾(めかけ)がいることは当然だと本音をこぼして雪堂を励ますが、図らずもその発言を舒芳に聞かれてしまう。
第28話 すれ違い
如風に離縁状を突きつけた舒芳は仕事に没頭する。如風は誤解を解くべくさまざまな策を講じて機嫌を取ろうとするが、舒芳は意に介さない。一方、如意(にょい)との婚姻についてようやく覚悟を決めた書硯(しょけん)は、雪堂を訪ねて許諾をもらう。だが、その経緯を聞いた如意は、なぜ自分に確認せず話を進めるのかと立腹。翠喜も破談にすべきだと雪堂に提案する。あれほどしきたりに厳しかった翠喜が如意の気持ちを優先する姿に、雪堂は驚きを禁じ得なかった。
第29話 秘めた想いとともに
蘇州織染(しょくせん)業組合の発足7周年を記念する会合に招かれた雪堂は、番頭たちに促され、蘇州の織り元と翠喜の歩みや功績を文章にしたためる。屋敷の離れで魏良弓(ぎりょうきゅう)と過ごした日々を思い出す翠喜のもとに、雪堂がやって来る。翠喜に対して借りを感じている雪堂は、彼女が宝琴に寛大に接してくれたことを感謝するとともに、子供を作ることを提案。その子を育てながら任家を守り続けてほしいと語る。そんな雪堂に、翠喜は離縁を切り出す。
第30話 再出発
翠喜は、己のために自由に生きようと、雪堂と離縁し任家を離れた。そして、任小蘭(じんしょうらん)を連れて錦渓坊(きんけいぼう)という工房を開き、弟子を募ることにした。しかし、誰でも入門可能とする条件に任家の長老衆が激しく反発。翠喜の技の流出を防ぐために、弟子は任家の者のみにしろと雪堂を通じて迫るのだった。そして、錦渓坊の開店当日。ある少女が入門したいと翠喜に訴える。しかし、少女を連れ戻しに来た母親は、女が稼ぐのは恥だと翠喜を痛烈に批判する。
第31話 新たな出会い
小蘭の父・任福(じんふく)が三叔父の息子たちを引き連れ、錦渓坊へ嫌がらせをしに来た。翠喜は自ら矢面に立ち、国の法を盾に任福らの暴挙を諫(いさ)める。そこに現れたのは一族の者がひれ伏す任家の当主・雪堂だった。雪堂に言われるがまま小蘭の身売り証文に拇印した任福は、不服ながらも退散する。雪堂は翠喜に援助を申し入れるが、任家に迷惑をかけたくない翠喜は一蹴。そんな折、宝琴のお供で郊外に出かけた如意は、眉目秀麗な知識人と出会う。
第32話 家訓の束縛
曹(そう)夫妻が大赦により釈放され、蘇州に戻った。文彬は、娘の曹幺娘(そうようじょう)を取り戻そうと厨房(ちゅうぼう)の雑用係として行院(こういん)に潜入し、幺娘との再会を果たす。しかし喜びもつかの間、文彬は曹家代々の名誉と娘の貞節を守る名目で幺娘に刀を渡し、自分の顔に傷を入れるよう強要する。態度を保留にした幺娘だったが、悲しい決断を下す。一方、夫の企(たくら)みを察した曹夫人は錦渓坊にたどり着き、翠喜と再会。幺娘の様子を見て来るよう翠喜に頼むのだった。
第33話 意のままに
採寸をしに来た職人たちに紛れて行院に潜入し、男を誘惑する幺娘の姿を目の当たりにした翠喜は、宝琴から楽戸(がっこ)の悲境を聞き、何としてでも幺娘を救い出すと決心する。そんな中、ある知識人が任家の門を叩く。以前、如意が川で出会った翁晋(おうしん)だった。3度会えたので縁組みしたいと言う翁晋に、如意は喜びつつも困惑。翁晋は如意を快く思わない母親に連れ戻され板打ちに処されるが、想いは変わらず、体を引きずりながら再び任家へ向かう。
第34話 自立への道
蘇州じゅうの工房が同様の製品を安価で販売するようになり、清越坊は経営難に陥る。客を呼び戻すために宝琴が選んだ道は、翠喜が残した図案に頼らず、自分なりの柄を作り出すことだった。官妓(かんぎ)となった幺娘を救いたい曹夫人は、名節のために娘を死に至らしめようとする文彬を必死に引き止める。そんなとき、緙絲(こくし)の競技会が北京で開かれることになり、幺娘が賤籍(せんせき)から抜けられるよう取り計らうためにも、翠喜は北京行きを決める。
第35話(最終話) 新たなる挑戦
翠喜は、緙絲職人の天下一を決める競技会への参加を決意する。競技会で首位になれば、幺娘を行院から救い出す道が開けるからだ。一方、経営難に陥った清越坊でも、宝琴が事態打開のために競技会出場を決意する。そして2人は競技会の日を迎えるが、開始まもなく宝琴の織機が動かなくなる。宝琴は監督官に事情を説明し、織機を交換するよう求めたが、逆に棄権を促されてしまう。窮地に立つ宝琴のため、翠喜はある秘策に打って出る。