日本では韓流ブームの火付け役は『冬のソナタ』だったが、中国、台湾、香港など、日本よりも早くに韓流が起こっていた国々では『秋の童話』が韓国ブームの原動力だった。なにせ日本に輸入されたとき、すでに「アジアで3億人が泣いた!」というのが枕詞につくくらいだったから。そのくらいの記念碑的な作品だ。

 ソン・ヘギョ、ソン・スンホン、ウォンビンという今やトップスターの3人の若き日の瑞々しくも切ない愛の演技が堪能できる作品としても意義深い。

 とくにソン・ヘギョの真っ白く透き通るような肌と清純可憐な魅力が田舎の風景にぴったりマッチしてとても魅力的。口をぽわっと開けた感じがあどけない子供のようで守ってあげたくなる。『太陽の末裔』のちゃっかり屋の早口ポンポンキャリア女子とは真逆だから、あらためて女優ってすごい。

 このドラマは、赤ちゃんの取り違えから始まる、兄と妹として育った男女が大人になって再会し運命の恋が始まる物語。愛しているのに愛していると言い合えない関係に陥った男女の、狂おしくも純粋な愛を取り巻く4角関係が描かれていく。

 メインで描かれるのはどんなにあきらめようとしても離れられない魂の恋。加えて2人の母親の情もきめ細かく描かれていて、育てた情なのか、生んだ情なのかを考えさせるところも興味深かった。

 『冬のソナタ』もそうだったが、人物たちが持ち合わせている、「周りの人を傷つけてはいけない」という倫理観が強く根底に流れている。それゆえ主人公たちは自分の思いを決して声高にぶつけずギリギリまで抑え込もうとするのだが、それでもなお抑えきれない思いのほとばしりに泣けるのである。

 そしてユン・ソクホ監督は何をもってしても分かちがたい主人公2人の結びつきを描くのがうまい!感性の一致やにじみ出る雰囲気の同化性などに加え、幼い頃につむいだ二人だけの思い出、情景などが要所要所に挟み込まれ、忘れようとしても忘れられない、まさに魂が恋しがる相手同士というのがひしひしと伝わってくる。

 それを印象付けるのが、田舎の畑のあぜ道、川、海、渡し舟、高原、廃校などの情景だ。自然豊かな江原道の清らかな自然が、そしてゆったりと流れる時間が、まさに童話のような純粋な愛を引き立てている。

 と、こんなにも運命の二人なのに、このドラマでは、本来なら主人公カップルの邪魔に思える人物を演じるウォンビンが魅力的で、こちらに肩入れした人も多かろう。私も、断然ウォンビン派だった。

 ホテル経営をしている父親と母親が離婚したことで、シニカルになってしまったプレイボーイ。強引でワイルドなちょい悪イメージの男が初めて感じた本物の愛だったのに、いくら愛しても彼女の心は手に入らず……。運命の愛をときに阻み、かなわぬ恋にもがき苦しみ、苛立ちから彼女にひどい言葉をぶつけてしまったりもするのだが、その屈折ぶりが萌えるのだ。

 「愛だと?笑わせるな。これからは金で買ってやる。お前はいくらだ?いくらほしい?」と言い放った男が、彼女が不治の病とわかってからは献身的に、そして愛する者どうしを大きな愛で見守るようになっていく。これは愛を知った彼の成長物語でもあるのだなと、彼の想いの変化にも大いに泣かされるのである。

 ともかく、この作品は、男性がよく泣く。最初に見たときはここまで泣くのかと、ある種、衝撃的な思いで見ていたものだ。ソン・スンホンなどは泣きすぎていつも鼻が赤かった印象があるくらい。その後も様々なドラマを見るにつけ、男が愛のために泣く姿を韓国ドラマの中によく見出せるようになったが、やはりそのきっかけはこの『秋の童話』。こんな風に、登場人物も視聴者も涙涙にくれるドラマの代表作だろう。

韓流ナビゲーター 田代親世